糖尿病について

糖尿病

食物によって摂取された炭水化物(糖質)などの栄養はブドウ糖に変換され、血液によって全身に運ばれてエネルギー源として活用されます。このブドウ糖の血液中における濃度が「血糖値」で、血糖値が高い高血糖の状態が慢性的に続いてしまっているのが糖尿病です。血液検査の結果、以下のような場合、糖尿病と診断されます。

血糖値(検査時点での血糖値の高さ)の異常

早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上のいずれかがあれば糖尿病型とされます。

HbA1c(ここ2ヶ月間ほどの血糖値の平均の高さ)の異常

HbA1c6.5%以上で糖尿病型とされます。
◎血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば糖尿病と診断されます。

糖尿病の症状

糖尿病では、血糖値の高い状態が続いても、初期にはあまり症状が出ることがなく、見過ごされがちです。ある程度進行してくると、排尿の回数が増えたり、喉が非常に渇いたり、疲れやすくなったりします。また急な体重の増加や、逆に食べているのに痩せてきたり、手足がしびれたり、感覚が鈍くなったりといった症状が現れる場合もあります。

糖尿病で気を付けなければいけないのは、様々な合併症が引き起こされることです。糖尿病では血液中にあふれた糖が血中のタンパク質と結びつき、有害物質を発生させてしまいます。これが血管に大きなダメージを与えてしまいます。ダメージは全身の大小の血管に及び、それによって血管が障害されて合併症が引き起こされます。糖尿病の合併症には「大血管症」と「細小血管症」があります。

「大血管症」は動脈硬化が進むことによって起こるもので、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳梗塞・脳出血等などの脳血管障害、足の壊疽などを起こし、最悪な場合は切断しなければならなくなる末梢動脈疾患などがあります。

細小血管疾患は、目の網膜や腎臓などの微細な血管が障害されることによって起こるもので、以下の糖尿病三大合併症と呼ばれるものが、よく知られています。

糖尿病三大合併症

糖尿病網膜症 網膜を走行する血管に障害が生じ、最悪の場合失明する危険性があります。日本人の失明原因の上位に位置する疾患です。
糖尿病腎症 腎臓を構成する糸球体の毛細血管に障害が生じ、余分な水分や老廃物を体外に排出できなくなります。透析が必要になる場合もあり、日本人が透析治療となる原因の第1位の疾患です。
糖尿病神経障害 高血糖による神経細胞の変化や、動脈硬化による神経細胞への血流が滞ることで神経に障害が起こり、手足のしびれやほてり、痛みなどがあらわれます。傷ができても気づかずに放置され、最悪の場合、下肢切断や全身性の感染症など命に関わる場合もあります。

糖尿病の種類と原因

糖尿病は原因により「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分けられます。

糖尿病の発症には「インスリン」というホルモンが深く関わっています。ブドウ糖は血液に乗って全身に運ばれますが、食後に血糖値が上がると、それに反応して膵臓からインスリンが分泌されます。細胞の表面にはインスリン受容体があり、インスリンがこれに結合することで、細胞は血液中のブドウ糖を取り込むことが可能になり、エネルギー源として活用できるのです。余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成されて蓄えられますが、その合成の促進にもインスリンが関わっています。

このインスリンが、遺伝的要因や自己免疫疾患などでインスリンを作る膵臓のβ細胞が破壊され、ほとんど分泌されなくなって発症するのが「1型糖尿病」です。小児から思春期に多くみられるタイプです。

一方「2型糖尿病」は、過食や偏食、運動不足による肥満(とくに内臓脂肪型肥満:メタボリックシンドローム)などによって、インスリンの感受性が低下し、インスリンが効きにくくなることで発症します。さらに、それによってインスリンを多量に分泌しなければならなくなった膵臓が疲弊し、インスリンの分泌量が低下することによって糖尿病が進行してしまいます。2型糖尿病は生活習慣病のひとつとされています。

このほか、糖尿病以外の病気や薬剤が原因となって血糖値が上昇して発症するものや、妊娠中にホルモンなどの影響でインスリンの働きが低下し、高血糖になってしまう「妊娠糖尿病」と呼ばれるものもあります。

糖尿病の治療

糖尿病治療の目的は、血糖値をコントロールし、冠動脈疾患や脳血管障害、糖尿病三大合併症と呼ばれるものなどを併発させないようにしていくことです。既に合併症を発症している場合は、その進行を抑制することが目的となります。

1型糖尿病の治療では、インスリンがほとんど分泌されないため、自己注射によって、人工的にインスリンを補うことで血糖値をコントロールします。並行して食事の管理も厳密に行うことが必要になります。2型糖尿病では、まず生活習慣を見直し、食事療法や運動療法を行うことで、血糖値のコントロールを目指します。

生活習慣の改善

とくに食事療法は、糖尿病治療においては重要です。糖質を摂取し過ぎないようにし、血糖値を上げやすい夜遅くの食事は控えるようにします。栄養バランスの良い食事を、規則正しく摂るようにすることが大切です。食習慣の乱れは、インスリンの感受性を低下させる内臓脂肪肥満に繋がりますので、注意しましょう。このほか、食事の際に、よく噛んで時間をかけてゆっくり食べる、食物繊維の多い野菜から先に食べる、タンパク質を主食より前に食べる、といった方法も血糖値を上げないためには有効です。

また糖尿病の治療では運動療法も重要です。ウォーキングやジョギング、スイミングなどの有酸素運動では、ブドウ糖や遊離脂肪酸の消費が期待でき、内臓脂肪型肥満の解消にも役立ちます。また筋肉はブドウ糖を取り込むことで血糖値をコントロールしますので、筋肉トレーニングをすることも重要です。ただし循環器系に問題がある患者さまは注意する必要がありますので、まず医師の診断を受け、メニューなども一緒に考えるようにしましょう。

このほか生活習慣の改善としては、十分な睡眠や休養をとるようにし、規則正しい生活を送ることが大切です。また喫煙は交感神経を刺激して、血糖を上昇させるだけでなく、体内のインスリンの働きを妨げる作用があり、糖尿病にかかりやすくなることがわかっています。調査では喫煙者は2型糖尿病に1.4倍かかりやすいという報告もあり、禁煙するとリスク低下がみられるとされていますので、強く禁煙することをお勧めします。

薬による治療

生活習慣の改善だけでは血糖値のコントロールが難しく、様々な合併症のリスクが高い場合は、薬による治療を行います。薬の種類としては、インスリンの分泌を促したり、その働きを高めたりするもの、食後の糖の吸収を遅らせたり、血液中の糖を尿に排泄させたりするものなどがあります。

具体的には内服薬として、SU剤やグリニド系薬、ビグアナイド薬、α-GI、SGLT阻害薬などが挙げられます。また注射薬としては、血糖を下げるGLP-1受容体作動薬などもあります。このような薬を患者さまの状態に合わせて検討し、使用していきますが、それでも血糖値がコントロールできない場合は、2型糖尿病の患者さまでも、1型と同様に、インスリンの自己注射を行うことが必要となります。